蜜林檎 *Ⅱ*
樹の手が、杏の手を探し握る。

そして、彼の低い声が囁いた。

「愛してる」

杏は、樹の手にキスをした。
 
二人は手を繋ぎ、互いの存在を
確認しながら深い眠りにつく。  

この幸せは、ずっと続いて行く

・・・そう信じて疑わない二人

樹は玄関先、キャリーバックを
置き、携帯電話でマネージャー
と話しながら、ブーツを
履いている。

これから、モーメントの
長いツアーが始まる。

ファンとしては、この時を
ずっと待ち続けていた。
 
ライブとは、アーティストと
同じ空間に存在する事ができ
一緒に、生の音を体感でき
喜びを感じ、呼吸をし

互いに今、この時を
生きている事を感じる。
 
最高潮の興奮の渦の中で
この胸を貫く感動と
出会える場所なのだ。
 
その場所へ、樹を送り出して
あげなくてはいけない。
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