蜜林檎 *Ⅱ*
二人の距離は、離れた。
 
エレベーターが来るのを待つ
樹の後姿をずっと見つめる杏。

何度も振り返り、杏に
手を振る樹。

杏は今にも溢れる涙を

一生懸命に堪えた。

エレベーターが、樹の待つ階に
止まり、ドアが開く。
 
そこには、キャリーバックと
帽子が置いてあるだけ。

樹は、裸足のままに駆けてくる
杏を両腕で抱き留める。
   
「ごめん、イツキ
 今度からは、ちゃんと
 笑って送り出すから
 
 ・・・ごめんね」

杏の涙を手で拭う樹は

何度も、何度もキスを交わす。
     
早くて、二、三日後ぐらいには
樹に逢えるかもしれないのに
 
もう、永遠に逢えない
んじゃないかと思える程に
 
杏の胸は騒ぎ、涙が溢れた。
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