蜜林檎 *Ⅱ*
雅也は樹の行動に驚いて
何も言えないでいた。

「アン、何してるの
 ここはいいから
 行ってらっしゃい
 
 ほら、エプロン外して・・」

杏はエプロンを外し、百合は
それを受け取る。

「お父さん行ってきます」

その声は、久しぶりに聞く
娘の声だった。

店を出て、樹の歩調に
合わせて並んで歩く。

何のお洒落もしていない杏の手
をしっかりと握りしめる樹。
 
強く繋がれた樹の手は

とても大きくて温かい。

これが男の人の手・・・

『私の全てを優しく包む』

不安な想いは、消えていく・・
< 19 / 275 >

この作品をシェア

pagetop