蜜林檎 *Ⅱ*
瑠璃子に付き添われ
実家の前にタクシーが停まる。
 
降りようとした杏に
瑠璃子は言う。

「アン、本当にイツキの家に
 戻らなくていいの?」

杏は頷き、声にならない声で
答えた。

「帰れないよ・・・」

「アン、あなたの帰る場所は
 イツキの場所だよ
 それだけは絶対に
 間違えちゃいけない
 
 明日は、ちゃんとイツキの
 元に戻って、笑ってツアーに
 送り出してあげなくちゃ
 ねっ、アン」

そうだった・・・

明後日には、樹はまた
ツアーに出てしまう。
  
『イツキに、逢えなくなる』

杏の瞳から、涙が溢れた。

『貴方なんかいらない』
 
なんて酷い言葉を告げて
おきながら、もう、樹に
逢いたくてしかたがない・・・
 
涙は、溢れては零れていく。
  
「アン、やっぱり、これから
 一緒に戻ろう」
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