蜜林檎 *Ⅱ*
視線の先で樹を捕らえながら
ここで会う約束をした
瞳の話に耳を傾けていた。

話の最中、樹だけを
見つめ続ける百合に
瞳は聞く。

「ユリちゃん
 なんで、イッキと別れたん?
 二人は、結婚するって
 ケイから聞いてたのに」

沈黙の後、百合は話し出す。

「わたしが、イッキを信じる事
 ができなくなった事が一番の
 原因かな
 彼は決して、わたしだけの者
 にはならない」

「その気持ち、私にも
 よう分かるわ
 私も同じ、ケイと付き合い
 出した頃、優越感の中
 夢み心地でおった私はある時
 ふと気がついてん
  
 彼を見つめるファンの人らの
 眼差しの多さに、誰かに彼を
 捕られるような気がした
  
 失うくらいやったら、自分
 から手を放すほうがいい
 それで、私は逃げ出した」
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