蜜林檎 *Ⅱ*
瑠璃子は、樹の悲しく沈む顔が
ほんの少しでも明るくなればと
思い、嘘をついてしまった。

「ルリちゃん、ありがとう」
 
樹は、瑠璃子の嘘に
気がついていた。

何故なら、誤解が解けないまま
杏が自分の所へ戻って来て
くれるとは、とても思えない。

樹の事を思い、嘘をついて
くれた瑠璃子に、彼は
心から感謝するのだった。

樹の存在するところには
たくさんの視線が集まる。
 
彼がその場所から、早く
離れようと踏み出した時
足がふらついて倒れそうになる
 
そんな、樹を百合は細い腕で
抱き留めた。
 
時間が止まる・・・

そして百合は、そのまま
きつく樹を抱きしめて
彼の髪に、優しく触れながら
耳元で囁いた。

「心配しないで、イッキ
 
 アンは
 貴方だけを愛してる」

百合の言葉に樹は、ほっと安心
して深い息をついた。
 
そして、彼は口元を緩めて
微笑んだ。
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