蜜林檎 *Ⅱ*
百合は、雅也に抱きついた。

「さすが、お父さん」

百合は、樹の携帯電話に
杏が戻っている事を知らせよう
と思ったが彼をびっくりさせて
あげようと黙っている事にした

杏もまた、樹に何て言葉を
かけていいか分からずに
携帯を手に、メールを打っては
やめてを繰り返しながら
玄関で樹の帰りを待っていた。

樹は、何も知らない。
 
このドアの向こう側に

愛する人が居る事を
 
彼は、知らない。

樹は夕方には、杏を迎えに行く
事を決めていた。
 
早く、杏に逢いたい想いを
胸に、閉じ込めて

一人きりで過ごさなくては
いけない部屋の重い扉を開く。

すると、玄関先で布団に
包まって眠る杏を見つけた。
 
これは、夢・・・

酒に酔っているせいなのか・・
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