蜜林檎 *Ⅱ*
樹の鼓動を聞いていると
涙が溢れてくる。

どうして、こんなにも愛しい。

「杏、どうかした?」

涙で潤んだ瞳で杏は、樹を
見つめて自分の思いを口にする

「ステージに立つ貴方は完璧で
 尊くて、神々しい
 この手をいくら伸ばしても
 貴方に届かない
 私の手が貴方に触れる事など
 許されないような気がした
   
 私の胸は、苦しくて苦しくて
 たまらなくなった
 
 こんなに苦しい胸の痛みに
 ずっと耐えていかなくちゃ
 いけないのなら・・・・・・
 貴方なんかいらない
 
 私は、そう思ってしまった
 あなたは、すごい人で
 皆が貴方を愛してる」

樹は、杏の瞳から零れ落ちる涙
に触れた後、彼女を息も
出来ない程に強く抱きしめた。
 
そして、耳元で告げた。  

「杏、このままで聞いて・・・
 俺は、完璧な人間
 なんかじゃない
 本当の俺はいつも寂しさに
 震えている・・・」
< 214 / 275 >

この作品をシェア

pagetop