蜜林檎 *Ⅱ*
杏は、樹の寝顔を見つめながら
話しかける。

「イツキ、早く目覚めて
 
 そして、低い声で

 私の名前を呼んで
      
 貴方の声が聞きたい」

杏は、樹の唇に

そっとキスをした。

「お姫様、早く目覚めて」

杏は溢れる涙を、手で拭う。

「泣いてばっかりだぁ
 
 私・・・」

その頃、百合は電話越しに真剣
な表情で誰かと話をしていた。

また事務所に繋がった電話から
洩れる、年配の女性の声。
    
その女性は、自分は

樹の母親だと名乗る。
 
寂しさに震えながら

杏は、いつの間にか

眠りについてしまう。
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