蜜林檎 *Ⅱ*
樹の眠るベッドのすぐ傍に
置かれた椅子に座ったままで
眠る杏に、朝の光が差し込む。

「アンズ・・・杏」

『私の名前を呼ぶのは・・・』
  
「イツキ」

目を覚ました杏は、慌てて
席を立ち、ベッドの傍で
見つめた。

深い眠りから、目覚めた

愛しい貴方を・・・
    
感動で、胸がいっぱいで
言葉にならない

「俺、そうか・・・
 杏、心配させてごめん」

「生きていてくれて
 
 ありがとう」

杏の頬を流れる、一粒の涙

点滴をつけた腕を動かして
その頬に触れようとする
樹の手を杏は、さっと取り
優しく握る。

そして、その手に頬を寄せた。

樹の指先が、杏に触れた。
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