蜜林檎 *Ⅱ*
「イツキ、お母さん言ってたよ
 貴方の元気な姿を一目だけ
 でも見たいって
 容態は大丈夫なのか
 頭は打っていないのか
 とっても心配していたわ
     
 知り合いの新聞記者の人に
 無理行って、この病院の事も
 教えてもらったらしいよ
     
 ねえ、イツキ聞いてる?」
  
樹は、ベッドから体を起こし
座り、杏を真っ直ぐに見つめた

「杏、俺は二度と、あの人に
 会うつもりは無いよ
 憎いとか
 そういうんじゃないんだ
 
 ただ、あの人がいなくなった
 後の親父は母親の分も、俺を
 必死に愛して育ててくれた
 俺があの人に会えば、親父は
 あの世で悲しむ」

「そんな悲しいこと言わないで
 イツキがお母さんに会う事を
 亡くなったお父さんが
 拒ませているなんて・・・
     
 そうやって、人のせいに
 しないでよ
 自分が会うのが怖いだけ
 でしょう
 レツだって貴方に会うのが
 怖かったはずだよ
 だけど、貴方に会いに来て
 くれたじゃない
 貴方は憧れだって、そう言って
 許してくれたんでしょう」
 
杏の声は、樹には届かない。
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