蜜林檎 *Ⅱ*
「イツキ、貴方って棄てられた
 子どものままなのね
 そうやって、ずっと
 お母さんの事を許せずに
 いればいい」
   
杏は病室を出て、樹の母親を
探した。
    
せめて、彼の容態だけは
詳しく教えてあげたい。
    
彼女の目の下の隈は、きっと
心配で、眠れない夜を
過ごしているから。

杏は、外来の待合室の椅子に
座る彼女を見つけた。

「探しましたよ」

「ごめんなさいね
 帰ろうと思ったんですけど
 帰れなくて・・・
 一目だけでいいなんて言って
 おきながら
 あの子の姿を見れば、もっと
 近くで見ていたくなる
 声を聞きたくなる
 母さんって呼んでほしくなる
 あの子を棄てておいて
 何を今更、おかしいわね」

そう言って、立ち上がった母親
に呼びかける声がする。

「母さん」
     
振り返ると、そこには
樹の姿があった。
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