蜜林檎 *Ⅱ*
幼い頃、そう強く思った少女は
大人になって決して手の届く事
の無い、彼に憧れを抱き
    
その存在を、ただ遠くから
見つめているだけで良かった。
    
歌声を聞いているだけで
幸せな気分になれた。    
    
それだけで良かったはずなのに

・・・一度、触れ合えば

もう二度と

その手を離したくなくなる。

彼の愛が欲しくて堪らなくなる
  
彼だけを想って、この胸は
苦しく、痛む。

彼の愛に溺れて行くのを
止めることなんてできない。

愛を知る前の自分自身に
引き返す事なんてできない。

それが、人を愛するという事。

『私は、イツキを

 愛してしまった』
 
杏は樹を愛した事で、今は亡き
母の想いが分かるようになった
    
掴んだ愛が間違った方向へと
進んでいる事を知っていても
走り出した思いは、もう
止めることはできない。
< 261 / 275 >

この作品をシェア

pagetop