蜜林檎 *Ⅱ*
「うん、リンゴだよ」
 
「とっても、上手だね
 そうだ、これ、あげるよ
 さっき、おまけして
 もらったんだ」

彼は袋から、林檎をひとつ
取り出して少女に差し出した。
 
少女は、とっておきの笑顔を
彼に見せた。

「いいの?」

「いいよ
 まだ、こんなにあるから
 
 どうぞ」
 
少女は両手を水をすくうように
胸の前に出した。

その小さな手に、大きな
赤い林檎をひとつ
 
そっと置いてあげた。

「わ~い、ありがとう」

「じゃあ、またね」

「バイバイ」

彼は、手を振り帰って行く。
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