蜜林檎 *Ⅱ*
『愛しい人が泣いている・・・
   
 俺の言葉に深く傷ついている
   
 今すぐ
 杏の元へと駆けて行って
   
 全て嘘だと言って

 抱きしめてやりたい

 おまえ以外の愛などいらない

 おまえの愛だけがほしい』

叶わない想いに気が狂いそう。

やり場の無い思いは、見知らぬ
女性に向けられる。
 
彼女をソファーに押し倒した
樹の手が止まる。

樹が抱きたいのは彼女じゃない

樹は彼女から離れ、電話で
タクシーを呼んだ。
 
そして、財布からお金を
取り出し彼女に渡した。

「ごめん・・・
 そんな気分じゃなくなった
 下にタクシー呼んであるから
 帰ってくれる?
 これで飲みなおしてよ
 ごめんね」

そう言って、ため息をつく樹と
さっきの樹はとても同じ人には
思えない。

女性は帰って行く。
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