蜜林檎 *Ⅱ*
樹は心を落ち着かせる為に
ゆっくりと瞼を閉じた。
 
その瞼の裏に、涙を流し苦痛
に歪んでいく杏の顔が浮かぶ。

あの時、一瞬だけ

目を逸らした樹・・・
 
あのまま杏を見つめていると
咄嗟に彼女の手をとり
抱きしめてしまいたくなる
衝動にかられていく・・・

その想いから目を逸らし
心の奥深くに閉じ込めた。

杏は一人きり、夜道を歩く・・

駅へ向かうが、終電は既に
出てしまっていて杏はしばらく
その場に立ち尽くす。
 
客待ちしているタクシーに
乗車することなく
 
その傍を通り過ぎ、誰もいない
駅近くの公園へ向かう。
 
そして、ベンチに腰をかけ
考え込んでいる。
 
いろんな事を一度に知りすぎた
杏、その中でも樹の別れの言葉
が、杏の胸に深く突き刺さる。
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