蜜林檎 *Ⅱ*
別れを覚悟で、杏に告げた
樹の言葉はあまりにもリアルで
杏はその奥に秘められた
彼の本当の想いに気づく事は
できなかった。

樹の言葉の全てをそのまま
重く受け止める。

『全ては夢・・・
 消えて無くなった』

杏の頬を、涙が
止め処なく流れていく。

樹もまた、部屋に一人きり
煙草を銜え、火をつけようと
した、その時
窓を打ちつける激しい雨音に
気がつく。

ふと、ベランダを見た樹は
取り入れ忘れた洗濯物が
風に揺れている様子に
気がつく。
 
今にも、雨に濡れてしまい
そうなワンピースを樹は
慌てて手に取り、見つめた。
   
この洋服は、樹が杏の為に
買ってあげた物だった。

何も持たずに家を出て来た杏

二人は翌日、杏が生活を送る為
に必要な物を買いに出かけた。
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