蜜林檎 *Ⅱ*
少し小降りになった雨が、足元
の水溜りに跳ね返る様子を
見つめている杏。

その姿に気がついた樹は
杏に駆け寄る。

その時、杏の姿を遮るように
一台のタクシーが停車する。

タクシーは、樹から杏の姿を
隠してしまう。

樹は、ゆっくりと歩きながら
杏の元へ近寄るとタクシーから
飛び降りた男性が杏の手を引き
腕に抱く姿を、偶然見てしまう

その腕に抱かれて泣いている
であろう杏に彼は言う。

「アン、泣かないで・・・」

雨は、また酷くなり地面に
叩きつける。
 
その雨音の合間から

杏の声が聞こえた。

「ソウちゃん、わたし・・・
 帰るところが・・・
 どこにも無い」

その言葉は、樹の胸を貫いた。
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