蜜林檎 *Ⅱ*
「・・・俺の傍にいろよ
 俺はアンに振られた今でも
 おまえが好きだ」

杏の細い腕が、頼りなく男性の
背中に回る。
 
そして、蒼一は背をかがめて
杏にキスをした。

女性を抱き、口づけを交わす
樹を見た時の杏の胸の痛みが
樹へと伝染する。

タクシーに乗車した杏は
樹が居た場所を見つめるが
もう、そこに樹の姿は無い。

「どうかした・・・アン?」

「雨、止んでる・・・」

杏を乗せタクシーは

遠く見えなくなる。

雨に濡れたアスファルトの匂い

・・・
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