蜜林檎 *Ⅱ*
「ルリ
 それだけじゃないよ・・・
 私はイツキの最後の言葉で
 気づかされたの
 これまでの幸せな日々は
 全て夢だったという事に・・
 初めから、私たちの間には
 何もなかった
 
 彼は、決して手の届かない
 唯一無二の存在
 誰のものにもなりえない・・
 ううん、違う・・・
 憧れている万人のもので
 一人のものにはならない
 ・・・・・・
 私だけのものにはならない」

「アン・・・」

濡れた服を脱ぎ捨てシャワーを
浴び、浴室から出てきた樹の
携帯電話が鳴り響き、慌てて
電話に出る樹。

「もしもし、イッキ・・・」

携帯から聞こえる声・・・

それは、ずっと、連絡が
取れず帰っても来ない
 
杏の事が心配で堪らない
百合の声だった。
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