蜜林檎 *Ⅱ*
百合は思い切って、以前
樹から聞いていた彼の
携帯番号へ電話を
かけたのだった。

「アンに代わってくれる?」

「杏は・・・
 もうここにはいない」

樹から、杏との別れの全て
を聞いた百合。

「そんな・・・イッキ
 本当にそれでいいの?
 大切な人の手を自分から
 放してしまった事を
 決して後悔はしない?」

タオルで髪を拭きながら
鏡に映る自分を見つめて
樹は答える。

「・・・しないよ」

「それが、どんなに身を
 引き裂かれる程に辛くても
 その想いに
 貴方は絶えられる?
   
 放してしまった手は
 もう二度と繋ぐ事は
 できなくなる
 永遠に掛け違えたボタンは
 そのままで
 胸は締め付けられる
 イッキ、貴方に
 わたしのような想いは
 してほしくない」
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