蜜林檎 *Ⅱ*

何でも瑠璃子自身も、最近
恋人との仲がうまくいかずに
別れ話が出ているらしい。

タクシーに乗車した
瑠璃子は言う。

「アン、ごめんね
　せっかく私の家で、ゆっくり
　話をしようと思っていたのに
　先客がいて・・・
　ミナミ、アンをちゃんと
　家まで送り届けてあげてね
　アン、また電話するね」
　
「うん・・・」

瑠璃子は、彼の待つ家へと
帰って行った。

「次、タクシーが停車したら
　今度はソウちゃんが乗って
　・・・私は、この辺りの
　ホテルにでも泊まるから」

蒼一は杏が心配でたまらなく
彼女の手を掴んだ。

「こんな時間に泊まれる
　ところなんて無いよ
　家には帰れないのか？」

「家には帰りたくない・・・
　お父さんが悪い訳じゃない
　のは分かってる
　だけど、今、顔を合わせたら
　私はきっと余計な事を
　言ってしまう
　お父さんを傷つけてしまう」