蜜林檎 *Ⅱ*
しかし樹の足は止まるどころか
加速するばかり。

彼女の声が聞きたい・・・

杏に触れたい。

精一杯、樹は叫ぶ。

「杏・・・アンズ」

自分の名を呼ぶ

愛しい人の声が聞こえる。

その場に立ち止まり
振り返った杏は
街中に立つ樹の姿に驚く。

黒いコートが風に靡き

彼は今まさに

この場に堕ちた

・・・堕天使
  
こんな場所に

彼が居るはずは無い。
  
手の甲で目を擦り、杏は
もう一度、彼を見つめた。

樹は、そこにいる。

「イツキ
 どうしてここに・・・」 
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