修羅と荊の道を行け
「沙羅ちゃんは大人しいのにね」

咲耶は困った顔で、傷を消毒してくれた。

理由なんて分かってる。犬は飼い主の気持ちを汲む。

飼い主は氷樹さんだ。

相当、オレはこの人に嫌われているらしい。

「大事がなくてよかった」

「そうね。お仕事に支障をきたしたらどうしようかと思いました」

「その時はうちに来てもらえば良いさ」

「そうね」

上品に笑う、女優の松島まつこの様に若い咲耶の母親は、オレの顔を見ては

「本当、男前だこと。咲耶もすみに置けないわね」

と言って氷樹さんと笑い合う。

「でしょ。これを死んでも引き留めろって説得するのに苦労しました」

「氷樹ちゃんの目は確かだからな」

「さっさと既成事実でも作って、纏まっちゃえば良いのにね。おじ様も孫の顔を早く見たいでしょ」

親相手に何を言うんだこの人は、咲耶を見ると顔を真っ赤にして俯いている。

「付き合いだしたばっかりだし。そういうことは、時の流れみたいなものですから。オレらにはオレらのペースがありますから」
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