修羅と荊の道を行け
そんなよこしまなことを考えていたのが悪かったのか、

突然、足元の方から

「ちゅうしてるぅ」

と聞こえた。幻聴なんかじゃない!確かに聞こえた。

目を開けると、咲耶も開けていた。唇を離してゆっくりと下を見ると、

「ちゅう」

と唇を尖らせている3歳位の幼児が、こっちをキラキラした目で見ている。

「ぎゃあ!!」

叫んだのは咲耶だった。あろうことか、海がある方に飛び、砂に足を取られて、身体が後ろに倒れる。

「咲耶!」

慌てて、咲耶の左手を捕まえたが、オレも砂に足を取られて、引き上げられずに、一緒に海に入ってしまった。

奇跡的に互いに左手の時計だけは濡らさずにすんだ。


そして冬の海に落ちたオレたちは、その幼児の家に世話になることになった。

海の近くで喫茶店と民宿を経営している夫妻から風呂と着替えを借りて、服が乾くまで、待たせてもらっている。

「すいません。こんな夜中に」

「いえいえ、こちらこそ、チビが雰囲気を壊してしまって」
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