修羅と荊の道を行け
「渡辺さん!そろそろ旦那さまがお待ちじゃないんですか!一人できっと泣いてますよ」

「あらら、そこを突いてくるの。じゃあ戻るわ」

渡辺さんは咲耶の描いた絵を持つと立ち上がった。

「色々、ありがとうございます」

「パソコンは咲耶に渡してくれれば良いから。お仕事頑張って」

戸が閉まると、また二人きりになった。

するとすっとお茶が差し出された。

「サンキュー」

「こんなことしか出来ないから」

「悪いな。折角の旅行なのに」

「仕方ないよ。それに、一緒にいれるだけで、じゅ、充分…です…」

最後のほうは、どもってモジモジとしていたが、それでも咲耶の気持ちは伝わってきたので、思わずぎゅうっと抱きしめた。

「早く終わらせっからな」

「うん」

仕事に再び取り掛かる。

「じゃあ私も少し作業しよう」

オレの向かいで、咲耶も道具を広げた。
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