修羅と荊の道を行け
「あら、千尋?何してるの?」

お母さんの声がドアの向こうから聞こえた。

え!浪川くんいるの?今の会話聞かれた?あーーーー、穴があったら入りたい!

「あはは、五百蔵の告白、全部聞かれたな」

万里くんが笑っているけど、笑い事じゃない。

どうしよう、浪川くん顔が見れない。

ドアが開いて、お母さんがお布団を持ってきてくれた。

「千尋と咲耶ちゃんはここで寝なさい。万里は客間に行きなさいね」

「はいはい。」

万里くんが部屋を出て行ってしまって、浪川くんと二人きりになってしまった。

せめてもう少し、万里くんにいてもらいたかった。

お布団を整えながら、なんとも言えない気まずさが漂っている。

「えっと…」

「何となく、万里兄ちゃんは咲耶のことが好きなんだろうなって思ってたけど、告白するとは思わなかった」

「うん…」

浪川くんはこっちをみないで話をはじめた。

「オレはずっと不安なことがあった。オレは咲耶より年下だ。実際ガキだし、咲耶が蓮聖みたいなガキといるのを見ても嫉妬するし、独り占めしたくなる。重いって思われるかもしれない。オレも同い年だったら兄ちゃんみたいに大人な告白も態度も取れるのかなって思いもした。でも現実はオレは年下のままだし…咲耶にはオレよりも同い年とか年上の男が相応しいかなって」

後は聞いていられなかった。浪川くんに衝動的に抱きついた。

「私は浪川くんじゃなきゃ駄目なの。浪川くんしか触れない。初対面で掌底
をかました私を諦めないでくれた浪川千尋くんじゃないとダメなの」

息を継ぐ暇もないくらいに一気に伝えた。浪川くんじゃなかったら、恋人のいる幸せを知らずにこのまま生きていただろう。自分以外の肌の暖かさの心地よさも好きな人に一喜一憂する楽しさも知らなかった。

これからも心動かすのはこの人だけだ。
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