修羅と荊の道を行け
お義父さんが起きる前に取りあえず事情を聞こうということになった。

「マオ、あんた今日受験じゃなかった?」

「さっき担任の先生から電話があって、真央花が受験受けてないって連絡があったの。どういうことか聞こうとしたら真央花ったらとんでもないことを言うんだもの」

お義母さんは額を押さえて説明してくれた。

「マオ、何してんの?塾の学費だって、受験費用もタダじゃないんだよ」

「咲耶お姉ちゃんには関係ないでしょ。黙って彼氏といちゃついてれば良いじゃない」

真央花ちゃんは咲耶にキツい言葉を投げるがそれに怯む咲耶じゃない。

「こっちだってあんたの気まぐれに関わりたかないけど、美世花が呼びに来なくても母さんが呼びにくることは分かりきってんの。だからさっさと終わりにしたい!早く話しなさい」

「お父さんに結婚したいって言っただけ。子どもできたから」

咲耶の動きが止まった。確かに予想外の発言だった。受験をやめるならまだしも結婚と妊娠を同時に言われるとは思わなかった。


「誰と結婚するって?」

「四宮さん」

「誰?」

「絵描きさん」

「知らない。代表作は?」

「小説の挿し絵とか。銀河放浪記」

聞いたことのない作品だった。咲耶はさすがに思い出したらしい。ラノベか。と呟いた。

「そいつここに来てるの?」

「外で車の中で待ってる」

咲耶は立ち上がると玄関に向かいだした。

「お姉ちゃん何する気?!」

真央花ちゃんが追いすがった。

「あんたの話だけじゃ信憑性がない。だから相手の話も聞かないと。結婚は一人でするものじゃないし」

「お姉ちゃん待ってよ」

サンダルに足を入れた咲耶が真央花ちゃんに向かって、

「本当に妊婦なら身体を冷やすな。奥に居な!」

真央花ちゃんは言葉を飲んで、咲耶を追うのを止めて、奥に戻っていった。

「浪川くんも一緒に来てくれる?男の人と二人で会うの怖いし」

「おう」

咲耶の頼みを断るはずがない。外にでると、家のすぐそばに、シルバーブルーの軽自動車が止まっていた。

「あれだね」

咲耶は助手席側に回ると、窓をノックした。それに気づいた男が窓を開けた。

「あなたが四宮さん?」

「はい。四宮逸樹(しのみやいつき)と申します。真央花ちゃんのお姉さんの咲耶さんですか?」

「ええ。妹がお世話になっています。妹が結婚するって言ってますけど、本当ですか?」

咲耶のストレートな質問に四宮という男は少し戸惑いながらもハッキリとはい。と答えた。

「そうですか。では、あなたも家の中へ入って下さい。あの子はうちの父親のことでいろいろ心配してるんでしょうけど当事者が揃わないのに話し合ってもフェアじゃないでしょ」

四宮さんは分かりましたと言うと、後部座席を見た。

そこには、6才ぐらいの男の子が眠っていた。

どういう事だ?子持ちなのか?まさか真央花ちゃんは不倫でもしてたのか?

「その子を起こしてもらって良いですか?それで、うちの隣の家で待っててもらいます。子どもに聞かれては不味すぎる話し合いになりそうですから」

四宮さんは咲耶の提案に従った。新井の家に男の子を預けに行くと、驚かれはしたが、快く預かってくれることになったらしい。






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