修羅と荊の道を行け
「そんなことなもん!できるもん」

「無理!」

「できる」

「無理」

このやりとりが何回か続いた後に、真央花ちゃんがぼそりとつぶやいた一言が後の展開を大きく変えた。

「ヘタレ処女のくせに」

その対しては咲耶は冷静だった。

「心から好きな人のために取って置いてなにが悪い。あんたみたいに付き合って3日目で事をしでかして、不始末を起こして逃げるような男とばっかりと付き合うよりも健全だと思うけどね」

納得してしまった。そのおかげでオレは咲耶の初めてを全て戴けるのだ。お義父さんかお義母さんかは分からないがその教えというか躾に感謝した。

「何よ!いい子ぶって、美世花ちゃんだって処女なくしてるじゃない」

「美世花の彼氏は、良い奴だったよ。付き合う前に、私に挨拶に来てくれたし、将来のことも考えてて、いずれ結婚するつもりだとも言ってたし、浪川くんの次に良い男だよ」

いきなり惚気られてびっくりした。彼氏をオレの次にかっこいいと言われた美世花ちゃんは、一番かっこいいのはお姉ちゃんだよ。と、彼氏を差し置いて咲耶に惚気ていた。

はじめの頃の皮肉屋という設定はどこに行ったのだろうか?

咲耶がこちらを見て笑ったのでオレも笑い返した。咲耶と2人の世界を作ったのが真央花ちゃんの癪に障ったらしい。

「ヘタレ処女と玉なし野郎が」

耳を疑った。四宮さんに聞こえなかったようだが、(聞こえなくて良かった)オレに聞こえたなら咲耶にも当然聞こえたわけで、目がどんどん鋭くなって行く。この目はヤバい。

ヤバい。この目は、初対面の時に咲耶をすっかり男だと思いこんでいたオレは、作業の手を遮る咲耶を押しのけようと胸を触ってしまった。柔らかい感触に、ハッとして咲耶を見たときは遅かった。

次の瞬間、目の前が真っ暗になった。

気づくとダンボールの上寝かせられていた1。

目撃したうちの会社の人の話だと、腹に一発食らって後ろに倒れたらしい。

その時の咲耶がこの目をしていたのだけは、覚えている。

冷めているのにその底には、煮えたぎる怒りが一瞬湧き上がる。

五百蔵咲耶、美しすぎるゲームクリエイター。そして怒りの女帝。

「クソガキが誰の何が無いっ?言わせておけばいい気になるなよ」

「咲耶?咲耶さん?」

「浪川くんのこと何も知らないくせに、ふざけたこと言ってんじゃねえよ」

オレのことを言われてキレたらしい。

「咲耶、おれは気にしてないから、真央花ちゃんも売り言葉に買い言葉みたいなとこもあったんじゃないのかな?」

そうであってくれと願った。どうか、怒っていても可愛いエンプレス怒りよ鎮まってくれ。

すると咲耶はオレの方を見て、

「浪川くんのこと何も知らないのに、酷いこと言った、真央花を野放しなんか出来ない」

うるうるとした瞳で言われて(オレにはそう見える)ドキドキしたが状況はそれを許さない。お義父さんも真央花ちゃんを窘めるが意固地になってしまった真央花ちゃんも引かない。そういうところは似てしまっている。

直接、妊婦に手を出すことはないだろうが、一色触発の状態で誰も動けずにいた。


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