淡い記憶
 試験が終わって、束縛からの反動の開放感と早く帰れるということが、
みんなをうきうきとさせている。

「あ、田中!青木は、今日は医者に行くから、クラブは休むって、代わりを頼むって言ってたぞ」  
いつも部室にビリにしか来ない田中を用心し、陽一郎は声をかけた。
「へー風邪か?」
「腹、痛いって……」
「腹イタかあ。ひょっとして盲腸?」
「盲腸?」
「盲腸なら即手術だぜ、毛、剃るんだよな。若い看護婦さんなんかが来たりして……」 「おいおい、またスケベなこと考えているだろう」  
田中と一階に降りて、右に曲がり、四組~一組の廊下を歩いていると、
太田舞子が2人を見つけて声をかけた。一大事でも起きたように慌てている。
「小原君!青木君、休みなのよ」

「休んでるのか、腹、痛いって……病院へ行くって言ってたからな」
「ちがうのよ!入院らしいわ」
「え!入院?」
 陽一郎は田中と顔を見合わせた。
さっき話した盲腸手術が、現実になったと思った。

「担任の加納先生が大慌てで、朝から5組は、
副担の西川先生がホームルームをしていて、
それで、西川先生が青木が入院したって……それが様子がおかしいのよ。
よくわかんないけど、面会謝絶とか……」

「面会謝絶?盲腸じゃないのか?」
「体教(体育教官室)に行っても、秦野先生もいなくて、
わけのわからない岡野と山本先生しかいないから、
はっきりしないのよ。どうするの?今日、練習」

 2人は副キャプテンの田中を見た。
「練習は……する……だろ?」
「副顧問の安本先生に聞くか?」  
陽一郎の言葉で、3人は、安本に聞くことになり、職員室に向かった。

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