淡い記憶
そう言って、安本の机に置いてあった白い紙に
、断わりもなく、当然のように安本の使っていた鉛筆で、
自分の電話番号を書いて、田中に手渡した。

田中も当然のように自分の名前と電話番号を書いて、
陽一郎に紙を回した。 

三人の電話番号を書いた紙を安本の机に置いて、三人は、礼をして職員室を出た。

「やっぱり面会謝絶なんだわ」  
太田は、興奮状態のようで、陽一郎は、そんなに大げさに考えなくてもいいのに、
と呆れたような気にさえなっていた。  

女子は太田の指示で、男子は田中の指示で練習をし、
試験の終わりでたっぷりと練習できるので、六限目まである時刻よりは、
早めに切り上げ更衣室に向かった。

練習中も太田は、気がかりのようで、
陽一郎に「昨日は、どんな様子だったの」とか
「家に行くの」とか休憩のたびに聞きにきて、
何か分かったら連絡がほしいと携帯の電話番号を陽一郎に手渡した。

その必死な様子が青木への想いを表していて、陽一郎は、胸が痛くなった。
 面会謝絶は二日続き、秦野教師も事情がよく判らない様子で、
「肝臓がどうとかで……家族の人も忙しいし聞けないから、
よくわからないんだ。たぶん、家族の人もわからないんだろう。
検査しているというから、まだ、原因もわかっていないんじゃないか……
とにかく、どうしようもない。
面会謝絶が解かれれば、見舞いにも行けるから、それまで、青木なしで行くしかない」

と病院に行っても、家族の他は、病室にも入れない状態なのは分かった。

 
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