LOVERS -Girls Side-


   * * *

 ♪♪~~♪~♪~♪♪♪~

「ふぅ…」

 白い鍵盤の上を躍らせていた指を下ろし一息つく。
目先に置いてある、五線の上におたまじゃくしが並ぶ紙を1枚捲った。
人差し指を一つの鍵盤の上に置き、ぽーんと綺麗な音色が室内に響き渡る。

「ん~…やっぱり…練習しても、ここがうまく弾けないなぁ」

 顔を顰めて首を傾げながら、楽譜とにらめっこ。

 今の時間帯は放課後―――。

 私がいる場所は、今は使用されていない旧校舎の音楽室。
ここで時々、ピアノを弾いては1人でぽそぽそと呟く。

 小さい頃からピアノ教室に通っていて、レッスンは中学卒業と同時に辞めてしまったんだけれど。
辞めてからも、やっぱり弾きたいなぁって思う時があって…。
 お父さんとお母さんが苦しい家計ながらも小さい頃に買ってくれたキーボードがきっかけで習い始めた。
私が1つ1つ弾く度に、喜び微笑む両親の顔が嬉しくて。
 けれど、私の下にはまだ幼い弟と妹がいて、私の高校進学と共にお母さんが働きに出るという話を聞いてしまい、お母さんに代わって学校が終わったら2人を保育園にお迎えに行くことを買って出た。
家事もこなすお母さんの負担を減らしてあげたいと思って、夕飯の買い物や支度も。
両親は気にせず、ピアノ教室には通っていいと言ってくれたけれど、私は中学を卒業するタイミングで辞めた。
下にはこれからお金がかかるだろうし、私だけが好きなことをやらせてもらうわけにはいかないと思っての行動。
 それに家にはキーボードがある―――正確にはあったが今としては正解かも…。
つい最近、やんちゃな妹に壊されてしまって、ひとみちゃん達にふいにその話をしたら―――。

『それじゃあさ、旧校舎にあるピアノ使わせてもらえないか、聞いてみようよ』

『えっ…』

『だって、春香弾きたいんでしょ? ピアノ』

『う…ん。弾きたい…けど…』

『だって! あのまま使わずに置いてあるだけより、弾いてあげた方がピアノだって嬉しいよ、きっと。私も一緒に聞きに行ってあげるから、ねっ?』


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