LOVERS -Girls Side-
「そんなところに座り込んで汚れるよ。ここ、掃除してないだろ」
言葉を掛けられても、背後を振り向くことが出来ない。
だって…この声―――って。
「…聞いてる?」
「………」
「はぁ…」
ため息をつかれたかと思ったら、目の前に何かが差し出されたのに気づき、そっとそれを横目で見遣り、目を見開く―――。
どう…して…?
目の前に予想もしてなかったものが大きな掌の上に―――。
これをこの人が持ってるだなんて…。
「お前のだろ? 昨日、鞄の中身ばら撒いた時、拾い損ねたものだろ?」
「あ……の…」
「お前が飛び出して行った後、ピアノの椅子の後ろに隠れてたのを見つけたんだ」
そう言って、私の真隣に腰を下ろす気配と、少し柑橘系のような香りが鼻腔を擽る。
そっと視線を上げていくと、私がさっき思い描いていた人―――東海林さん…の姿が飛び込む。
「手、出して」
「…え?」
「手」
言われるがまま、震える手をゆっくりと差し出す。
そうして、手の平に落とされた探し求めていたものが、そっと落とされた。
「これ、朝から友達と探してたのかと思って、声を掛けようとしたんだが。クラスの奴らがいる所で話掛けたら、迷惑がかかるかと思って、中々タイミングが掴めなかった」
「………」
「これ、違ったか?」
彼の声に頭を左右に振る。
声が出せなくて、こうすることが精一杯、胸の前でキュッと両手で握る。
「よかったな。大事なものなんだろ?」
「………」
お礼―――言わなきゃ、声をかけてくれてるのに―――。
俯くばかりの私にきっと呆れられちゃう…。