もう離さない…。
「俺は亜耶のこと名前で呼びたい。駄目?」
「駄目も何も、もう呼んでるじゃない!」
「あっ、マジだっ!つい…」
― 強引なわりには少し律儀だった。それに慌てる姿が可愛いかった…。
「もう、しょうがないなぁ。私のことは亜耶って呼んでも良いよ。」
「マジで!?俺、亜耶のことメッチャ好き。」
「……。」
―それって…どういう意味?話し相手として?友達として?
それとも…
「私は…よく分からない。」
「そっか、じゃぁ…」
そういって勝巳は自分のことを話し始めた。すごく聞きやすくて、面白くて私はずっと笑ってた。
「なぁ・・・亜耶の親、帰ってくんの遅くね?」
「お父さんもお母さんも、今日は帰ってこないよ。」
「まじ!?」
「うん。なんか結婚記念旅行とかで、今日と明日はいないんだ…。」
「そっか、大変だな。…でも俺、今日は帰るわ。」
そういって勝巳はベランダのてすりに足をかけた。
「待って!」
気付いたら私は勝巳の手を掴んでいた。
「どうした?」
勝巳は本当にびっくりしてたみたいで目をキョトンとさせていた。
「その…」
―私…今何言おうとしてたんだろう。
「ゴメン。なっ…何でもないから。帰って…」
―やだ帰らないで。勝巳が帰ったら寂しいよ。
「何でもなくないだろ?だって、お前泣いてるじゃん…。」 自分の頬に触れると涙で少し濡れていた。
「ゴメン。本当にもう大丈夫。」
「……」
ふわっと温かいものが私を包んだ気がした。
「え―。」
目を開けると勝巳の体全体に私は包まれていた。
「ごっ、ごめんっ、亜耶が泣いてんかと思って…」
馬鹿…泣いてるのは勝巳に会えなくなるのが怖いからだよ。
ぶるっ…
そのとき私の体が震えた。
「寒いのか?無理しないで中入れよ。」
「か、勝巳は…どうするの?」
「俺は…帰るよ。」 「そっか、そうだよね。」
そう言いながらも私は勝巳のことを離さなかった。
「帰れないよ。」
「うん。ゴメンね。」
でも手を離せなかった。
「ヤベー俺…今日帰りたくなくなってきた。」
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