ネバーランドへの片道切符
階段を登って、彼の部屋に近づく。
ドアがうっすら開いていたせいか、彼の声と、ギシギシした音が聞こえる。


私の知っている彼の声じゃない。


いけないと思いながらも、私はうっすら開いている隙間から、目を覗かせる。


ベッドの上にいる彼の周りには、使用済みのぐしゃぐしゃに丸めてあるティッシュ。


吐く息は荒々しく、喘ぎ声混じり。
ギシギシするのは、ベッドのスプリング。


なにをやっているのかは、直ぐに分かった。


「……ンッ…マユ…」


左手には、携帯電話を、右手は自分を慰めて、
快感に浸りながら、ある人の名前を声に出す。


その名前に聞き覚えがある。
だって、『マユ』は、私の姉の名前だから――


「駄目じゃん。インターホンの音に気づかないぐらい夢中になって……
相当、好きなんだね」


ドアを思いっきり開いて、部屋に入ると、独特のニオイが支配する。


その原因の彼は、しごいた手を止めて、
熱に支配され赤くなった頬は、一気に真っ青な顔をして、
額から流れる汗は冷や汗に変わって、


「ねーちゃんのこと」


あはははは。


こんなみっともない姿を、好きな人の妹に覗かれて、可哀想だね。
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