ネバーランドへの片道切符
「いや、びっくりしただけ」


顔が近いのは相変わらずのまま。だけど、私を惹きつける漆黒の瞳は泳いでいた。


傷つかないような言葉で話しているけど、その表現……やっぱり幻滅された?


「その……ストレス解消だけでするの……」


私にとっては、頼りになる兄に存在が、なにごとも、冷静にこなす彼が、しどろもどろな口調。


姉に対してたまに見せる口調。


……幻滅も少しはしただろうが、彼は、私を身代わりにするのか迷っている。


ずっと好きなのに、マユに恋愛感情として見て貰えない。


その現実を認めなきゃ彼は新たな前に進めないのを分かっているハズだ。


だけど、このことを認めるほど、成熟した考えを彼も、私も、持っていないんだ。


「他に何か理由ほしい?」

「いや、それでいいならいいんだ……だけど……僕……あのさ」


女の私からこんなにも、アピールをしているのに、いまいち煮え切らない態度。


「なに、あたしに話してよ」


いつもより、声のトーンを高くする。


一人称を「私」から「あたし」に変える。


ただそれだけで、こんなにもギラギラした男の瞳を真っ直ぐ私にぶつける。


いや、違う。これは、マユに対してだ。
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