紅龍 ―2―
「…―いや。何でもない。ただ名前を言いたかっただけ。」
重い空気の中、恭平の声だけが響く。
本当は何かあるくせに。
でも恭平がそう言っているんだ。
「ん。分かったよ。恭平。」
ここは引いた方がいい。
あまり深く入り込むのも良くないしね。
「…―もう一度。」
「へっ?」
恭平の言った言葉が聞こえなかったために、聞きなおす。
「もう一度俺の名前を言って。」
恭平が今度はしっかりとした口調でそう言った。
目はしっかりと私を見ている。
私はまるで蛇に睨まれた蛙のよう。
恭平から目を放せない。
「…―恭平。」
私は意味もわからず恭平の名を口に出す。