工場スクラップブック
上海の防空壕跡
こんなことがあった。

そこは上海の町のど真ん中だ。

私はある製品を入れる
パッケージに貼るシールを印刷する工場で、
品質チェックをする目的で出向いた。

注文は日系メーカーに発注したが
実際は下請けに回されていた。

仕方ないので依頼先の中国人スタッフと
いっしょに下請けの協力工場へ行った。

この中国人スタッフは日本に留学経験があるので日本語ができた。


「やあ、ニーハオ!ニーハオ!まあまあお茶でも」


対応に出てきた工場の社長は実ににこやかだった。


「担当者君。ここで印刷してるの?」


「はい、そうです。でもちょっと聞いてみますね。老板、シールの印刷を見たいんだけど、どこでしていますか?」


「印刷?今?いいよ。電話して予約しておくから」


「電話して予約する?で?担当者君。どこ?場所は?」


「えーとですね。すみません。聞いてみます。老板、印刷はどこでしていますか?案内してください」


ま、老板とは社長のことである。


「OK!いっしょに来てください」



と、
近くだから案内すると言われた。

いったいどこへ案内するというのだ。

ここの会社内ではないのか?
担当者君にもそう言った。

ここで印刷してるっていうから来たんだけど、
また別の場所へ移動ですか?

まだ開発の進む頃の上海の町は
新しさと古さが共存するエキゾチックな場所であった。

5分程街中を歩き、
やがて錆びた小さな鉄の扉の前で立ち止まった。


「ここです。どうぞ」
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