それでも好きだった
何も話さないまま駅に着いてしまった。
時間と言うものは本当にあっという間だ。
私は彼にお礼を言った。
彼は私の方を向き、じっと見てくる。
私は首を傾げた。
「あのさ…」
「何?」
「聡のことなんて呼んでんの?」
急にそんなことを言ったもんだから、私の顔はきっとマヌケ面だと思う。
「“聡君”だけど?」
なんでそんなことを聞いてくるんだろう?
彼はいまだに私の顔をじっと見てくる。
「…みんなの前がダメなら」
「うん?」
「せめて二人のときは俺も名前で呼んで」
「え…」
彼は頭を掻きながらそう言った。