人はそれを恋と呼ぶ
・優しい声
「…で?その顔も見た事がない彼を好きだと思うわけ?」
呆れた声で言うのは、同じクラスの加藤 舞(カトウ マイ)。
幼なじみの彼女は、あたしを解ってくれる数少ない友達の一人だ。
「好きっていうか…会ってみたいと思ってるだけだし」
そう、好きなわけじゃない。だって顔も知らないし、喋ったこともないし。
どう考えてもよく知らない彼の事を、はっきりと好きという感情はまだなかった。
「ほーんと、由紀はめんどくさいんだから。なんでそんな接点のない人に惹かれちゃうの?」
長くて綺麗な髪を揺らしながら、舞はうちわを忙しそうに動かした。
暑くてもエアコンがない我が家では、扇風機しか涼む手段がないのに、扇風機がないからだ。