人はそれを恋と呼ぶ


もう一度、耳を澄ませる。


「…あっちーなぁ。俺、アイス食いてぇ」


彼の声が聞こえた。


アイス?アイスのコーナーにいるんだ!


あたしは通路に飛び出して、人混みをかきわけてそこに向かおうと足を踏み出した。


のに。


腕を捕まれて振り返った先には、また邪魔者。


「…ゆ、由紀!悪かった。怒るなよ?すっかり店番忘れてたけど、思い出して走って帰って来たんだ!すぐに代わるから…あれ?お前…なんで眼鏡なんてしてんだ?」


焦った顔の、貴兄ちゃん。

空気の読めない、馬鹿兄ちゃん。


「いいの!貴兄ちゃん…あたし別に怒ってないし、今日は代わってあげるから…!」


その手をふり払って店内を駆け出した。


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