人はそれを恋と呼ぶ
あ、まだいたんだ…。
あたしは後ろから近づいてくる足音に、振り向いてみた。
ちょっとくせ毛がかった茶色い髪を揺らして、そんなに背が高くない男の子が歩いて来て。
あたしとすれ違い様に言ったんだ。
あたしが聞きたかった、彼の声で。
「先行ってていいって言っただろ?隼人」
恥ずかしい事にあたしは、体が固まったように動かなくて。
あたしが声も出せずにいる間に、彼は個別の会計を済ませてお店から出て行った。
「…由紀?大丈夫?
あんた…顔が真っ赤だけど?」
舞の声が右から左へ抜けていった。
口から出たのは、初めて知った彼の名前。
「‘ゆうた’って名前だったんだ…」
そう、呟いた。