人はそれを恋と呼ぶ
隣の家の犬の名前を彼は知らなくて「じーさん」と呼んでいた。
あたしが彼に話しかける口実は、この犬の名前を教えてあげるだけで出来るのに。
彼がこの子をじーさんと呼んでいる声を思い出して、自然に頬が緩んだ。
「ゆーちゃん…。この子の名前はね、じーさんじゃないんだよ…」
その時思いがけず、誰かの声が響いた。
「ゆーちゃんって、誰の事?」
頭を撫でていた犬が勢いよく立ち上がって、嬉しそうに尻尾を振って駆け寄ったのは、久し振りに見た顔だった。
「修兄ちゃん…?」
隣の家の、7歳年上の息子、修兄ちゃんだった。
「おー。ポチ久し振り!元気にしてたか?」
そう、隣の家の犬の名前は、ポチ。安易な名前なんだけど。
「由紀、お前今いくつになった?相変わらず中学生には見えないよなぁ」
そう言ってポチを撫でながら笑う修兄ちゃんは、すっかり大人の顔だった。