人はそれを恋と呼ぶ


由紀は数歩後ずさりして、その場にペタンとしゃがみこんでしまったから俺は焦る。


「お、おい、由紀…!?大丈夫か?」


俺もその場にしゃがんで由紀の顔を覗き込んだ。


「どうして…?」


由紀はぽつりと呟く。


無口で感情を言葉に出来ない不器用な彼女の、本当の気持ち。


「あたし…ずっとね、ずっと…木下と喋りたかったの…」


「ずっとって…なんで俺の事知ってたんだ?由紀」


俺が彼女を『由紀』と呼ぶたびに、彼女はいちいち肩を震わせる。


「木下が…あたしを好きになるなんて…信じられないの。だって…あたし、全然木下と喋れなくて…緊張しちゃって。どうしようもなくあがっちゃって…木下の前にいるだけで、心臓が壊れたみたいになっちゃうんだもの…」


今度は彼女の言葉が、俺の心臓を壊しそうだった。


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