人はそれを恋と呼ぶ


蒸し暑い8月。夏休みももうすぐ終わる暑い夜。


今日も全開に開けた窓の下から聞こえる声に、あたしは耳を傾ける。


「…腹減ったろ?遅くなってごめんな」


隣の家の庭から聞こえる声。もちろん隣の家の住人ではない。


隣の家はいつも帰りが遅くて。8時を過ぎても帰って来ない。


「俺は暑くてバテてるけどな~。やっぱり俺は冬が好きなんだよな。お前も暑いの嫌いだろ?」


彼の話は一方通行。返事はない。


でも彼はいつも一人で喋り倒す。


おかげであたしは彼について結構詳しくなった。


ただ、名前がわからない若い男の子の声を、あたしは黙って聞いている。


彼が一生懸命話してる相手は、隣家の…


「おぉ!じーさん、そんなに腹減ってたんか?そんながっつくんじゃねぇって!」


ゴールデンレトリバー♂推定10歳。


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