パパはアイドル♪ ~奈桜クンの憂鬱~
七海はグラウンドを出てしばらく歩くとバッグから携帯電話を取り出し、どこかへかけた。


「もしもし?七海です。…えぇ。…はい。上手くやったわよ。…えぇ。意外に簡単だったわ。…そうよ。これで奈桜は絶対にドラマに出るわ。間違いない。他のドラマの主役が決まってたとしても、きっと出るわよ。毎日徹夜してでもこの仕事を受けるわ。きっと…ね。娘の為なら事務所を敵に回しても、Zのメンバーと対立しても。奈桜は……予想以上に『パパ』だったわ」


ふと足を止めて夜空を見上げた。
濃い藍色が目に染みて来る。


「…こっちは期待通りに上手くやったんだから、例の件、頼むわよ。ダンナに演出の仕事を回してくれるって話、忘れないでよ。神川さん」


七海の電話の相手はあの神川プロデューサーだった。
神川は七海に手を回し、七海の夫に演出の仕事を回す代わりに奈桜がドラマに出るように仕向けるように頼んだのだった。
七海は電話を切った後、小さくため息をついた。

「桜…、ママはあなたに嫉妬してるのかもしれない」


月が…滲んで見えるのは涙ではない。
少し長くなった前髪がさっき目に入ったから。
きっとそうだと七海は思った。
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