泣かないで!

集中して疲れていたのか直ぐに優は深い眠りにおちていった。

…スグル
……スグル

そんな優に
誰かが話しかける。

また…かよ。

何も見えないが
その声は優の脳裏に焼き付いていた。

「ねえ?どうしちゃったの?なんで…」

やめてくれ

その声に否応なしに応えてしまう。

「なんで変わっちゃったの?何が気に入らないの?」

やめてくれ、

そして
声とともに扉を叩く
音が脳内に響き始める

「何がしたいの?」

………頼むから…

優の言葉は声にならない
だが、聞こえる声は益々強く、大きくなっていく

「ねえ?」
頼むから
「ねえ?」
やめてくれ、――さん
「優、あなたを…」

声と、扉を叩く音が一段と大きくなる。

やめてくれ…
「―っ、母さん!」

そう声にすれば
先程まで重かった瞼が一気にひらいた。
額には汗が流れ
泣いた後のように息があがっていた。

「はぁ、はぁ、はぁ」
夢。

それは幾度となく見てきた……

時計を見れば10時過ぎ。
眠ってから数時間が経っていた。

優は手で軽く汗を拭い、
再び眠ろうとする

が、
その眠りを妨げるように
部屋の中には、扉をノックする音が響いた。

優は一度肩を震わせる。
先程まで見ていた夢のせいかもしれない。
身体が強張る

それでもなんとか冷静になると、新聞かなんかの勧誘だろうと無視を決め込む事にした。

だが、ノックの音は止まない。

いつまでも叩き続ける。

優は内心
これは、俺と、訪問者との戦いかもしれない
だから俺は負けない。
などと理由をつけ
ベッドから降りようとはしなかった。

しかし結局
いつまでも叩かれる扉の音に白旗をふり
ベッドから出る事になる

「…はい」

夢見最悪、
眠い
しつこい訪問者
返事した声は不機嫌そのものだったかもしれない

玄関の扉を開けば、久しぶりに見る太陽の光

眩しくて目を細めれば
ぼやける視界に
一人の女性が写った。

「…か…カルマさん?」

その女性は
ネット仲間のカルマこと
泉 志穂(いずみしほ)だった。

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