泣かないで!

「…久しぶり、だね」

沈黙を破ったのは
意外にも優だった。

まあ、ただ沈黙と言う空気に耐えれなくなっただけなのだが

「そうね、2年ちょっとぶり?」

「うん。そうだね」

返事をしながら部屋に入りパソコンの前の椅子に座る優。

そんな優を一瞥すると
志穂は物憂い顔で俯いた
「…なんか、あった?」

聞いても何も答えない志穂。

そんな志穂を不審に思いながらも
ふと視線をベッドの下にやれば
志穂の足元には大きなバック型の籠が置かれていた。

さっきまでは、志穂がいきなり現れた驚きで
気にもしなかったが
よくよくみれば、かなり大きい荷物だ。

なんだか中身が気になるのは、人間の好奇心ってやつだろうか。

「大きい荷物だね。
どこか、行くの?旅行とか…あ、帰り?」

少し作り笑いでテンション高めに話しかければ、漸く志穂が顔を上げて。

「責任…とって」

だが、顔を上げた志穂は意味のわからない言葉を口にした。

「…何を?」

「だから、責任」

なんだかよく分からないが、優の頭の中で警鐘がなる。

面倒な事が起きる予感がした。

そしてそれは直ぐに的中する。

志穂はベッドから立ち上がり、籠を抱えると
椅子に座る優の膝にそれを置いた。

籠のくせにやたらと重い

「…責任とって。これ、あの日できた私とあなたの子」

優は視線を自分の膝に移して。

膝の上に置かれた籠からは、中でスヤスヤ眠る子供が見える。

「へ?」

状況に似つかわしくない声が口から漏れた。

「名前は一樹。一歳になったばかり…頼んだから」

状況把握できない優が呆然としてる間に
志穂は自分の鞄を持ち
玄関に向かう。

優は玄関のドアが閉まる音で我に返り、
籠を床に置くと
慌てて後を追った。

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