泣かないで!

裸足で外に出れば、
マンションの廊下に志穂の後ろ姿を見つけて

エレベーターに乗り込む直前で腕を掴んだ。

「ま、待って、カルマさん」

慌てたせいか息があがっている

「な、なによ?てゆーかハンネで呼ばないで!」

「あ、ごめん…じゃなくて!何?どうゆう事?
意味分からないんだけど」

腕を振り払われそうになるのを、必死に掴まえて

「意味も何もそのままよ!あれは貴方の子、これから育ててって事よ!」

「いや、だから、俺無理だよ、できないから!」

ヒステリックになり始めた志穂に、釣られるように優の声もでかくなっていく

「できないじゃなくて
面倒みるの!責任ってそうゆうものでしょ!?
男なら腹括りなさいよ!」

「でも俺、働いてないし」

「だったら働けば!
あたしにはまだ未来があるの、貴方と違ってやりたいことも、やらないとならないことも、いっぱい、いっぱいあるのよ!」

志穂はありったけの力で叫び、腕を振り払った。

そして鞄からお財布をだすとお札を掴み
優に押し付ける。

「子供の為に、人生諦めたくないの。あの子の為に沢山我慢しなくちゃならいなんて…嫌よ!
貴方、やりたいことないんでしょ!?だったら私の代わりにあの子育てて」

そう言い志穂はエレベーターに載った。

閉まるエレベーターの扉が、酷くゆっくりに思えた。

なんだか理不尽な事も言われた気がするが
確かに今の優には
何もなかった。

やりたいこと、やらなければならないこと
未来も。

目の前で、未来を諦めたくないと叫んだ彼女に
返す言葉がない…
見つからない

ただ、閉まっていく
エレベーターの扉を
その奥の志穂の瞳を
見つめていて。

気が付けば、志穂に押し付けられた札が
床に散乱していた。

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