あなたへ。
「ありがとうございましたー。またお越し下さいませー」

毎日来る常連客のおじいさんに、お弁当の入った袋を渡し、あたしは深々と頭を下げる。
今日も今日とて変わらない1日の仕事。

コンビニの店内業務全般、なんて聞くと楽そうな仕事に思われるかもしれない。
けれど、レジや接客の他に品だしや商品の補充、清掃に発注までこなさなきゃいけないから結構大変なのだ。

街の中心部のオフィス街に店があると言う事もあり、朝やお昼どきはサラリーマンやOLで店が混み、レジに追われて自分の仕事がままならないと言う事もある。

週に5日、あたしはここで営業スマイルを振りまき続ける。

「新庄さん、もうお客さん空いたから休憩入っていいよ」

「はい…」

坪井店長に言われて、あたしはとぼとぼとバックヤードへ向かう。
このうだつの上がらない雇われ店長、もう40代後半でバツイチで別れた奥さんとの間に二人息子がいるが、奥さんに会わせてもらえないらしくもうずっと会ってないらしい。

口下手で愛想があまりないあたしには、仕事で必要な事しか話さないが、たまに同じ時間で働く主婦の人や、夕方から夜までのシフトで働く高校生や大学生の女の子にはめっぽう甘い。

特に市内の女子大に通う、一歳上の美人でスタイル抜群、おまけに愛嬌もある小谷野さんは一番のお気に入りで、もうデレデレなのだ。

勤務時間中に他愛もない雑談で笑わせるのはもちろん、彼女がミスしても怒らず笑って許し、急に体調を崩し休まれても嫌な顔一つせずむしろ心配してますメールを送り付けるほどだ。

あたしがミスをすれば絶対に一つや二つ必ず嫌みを言われ、急に休んだり早退でもすれば「この忙しいのに」「ウチは人数ギリギリでやってるのに、困るんだよねぇ」とまたも言われる。

小谷野さんの容姿の良さは誰がどう見ても上の中レベル、その足元に及ばない十人並み、いやそれ以外のレベルだけど…その様な扱いを受ける度、悲しくなる。

ここでも、人に好かれない。
いや、血の繋がった家族とですらうまくやれないのに、他人ばかりの社会となんて無理か……。
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